童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2019.5.2今夜のお話なあに

登龍門

 滝は、山の水を集めて、滝からゴーゴーと音を立てて落とします。水は川を下り、最後は海に流れるのです。
 ある日のこと、川の魚たちを集めて天の神様がいいました。
「みんなよく聞くんだ。この川を下って海のほうへ行くのはたやすいことだが、この川をさかのぼって上流のほうに行くと、ゴーゴー音を立てて天から水を落としている滝にやってくるだろう。その滝を、お前たちの中で一番先にのぼりきったものに、魚の王様になってもらおうと思う」
 川の魚は、みな我こそはと滝のほうに泳ぎ始めました。でも、どの魚も、自分が王様になりたくて、次々にのぼろうとしますが、途中で落ちてしまいのぼることができません。
 そして、あまりにたくさんの魚たちが、川を上り始めたので、川は魚でいっぱいになりました。おまけに、
「じゃまだ。どけよ」
と、けんかが始まりました。
 そのときです。
 一匹の鯉がスーッと抜きでて滝をのぼり始めました。鯉は、小さな声で祈っています。
「国が豊かでありますように。みんなが仲良く暮らせますように」
 水にたたかれ、うろこがはがれても、その鯉は負けません。力をふりしぼって、ぐんぐん、ぐんぐんのぼりました。
 そして、鯉はとうとう、のぼりきると、さらに天までかけあがりました。そして、雷鳴がとどろいたかと思うと、ついにその姿は龍になりました。
 鯉は、自分のことよりも、みんなのことを、そして国のことを思ったので、龍となったのです。
そして、魚の王様になりました。その姿は金色のうろこが、ぴかぴか光り輝く、それはりっぱな王様の姿でした。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。